みどり

 「…ちわ! 疲れ様っす」おいおい、ブレねぇなこいつは。夜のランク戦に備えて早めに本部に来たは良いものの、特段やるべきことも思いつかず、結局はいつもどおり作戦室のこたつに潜り込んでいた。漫画を手にしたまま寝落ちてしまったようだ。やや重たい瞼をもち上げて、寝ぼけたままスマホをタップする。ランク戦にはまだ早い時間だ。背後に気配を感じたので、こんなに早くここに集まるのはゾエかユズルだろうと見当をつけて、むくりと身体を起こした。ところが目の前にいたのは意外にもカゲ......と、もうひとり。この部屋では見慣れないカーキ色の隊服に身を包んでいる。一拍置いて、向こうもこちらに気がついた。目が合った瞬間、カゲの顔には"しまった" の四文字がはっきりと浮かんだ。宇宙空間にでも放られたかのように時が止まり、三人揃ってポカンと口を開ける。先に地面に足を下ろしたのは、噂の彼氏の方だった。そっちがそうならこっちも、と通常運転で応える。「よう太一ぃ」一方カゲは、黙って顔を逸らしてやがる。「おいカゲ、もっとやれ。ここで見てるから!」太一はと言うと特に動揺も見せず、へへへと笑いながら防衛任務へと出かけていった。アイツ大物だな、とこたつの上のみかんに腕を伸ばしながら内心で舌を巻く。それにしても、うちの隊長あんな顔すんのか、カワイイじゃん。チューする横顔を思い出す。今度ゴムでもプレゼントしてやるか。思いついた悪い企みに、にへへ、とこっそり顔を綻ばせた。


初出:2021/11/2(Twitterにて)