「続きがしたいです。」遠慮がちに、しかしまっすぐの瞳で太一は言った。
食む。食まれる。舐める。舐められる。擦る。擦られる。指は絡ませ合う。もう幾度も繰り返したことだ。しかし、十九才は必ず問う。肌を見せ合うとき、十七才に問う。おまえに触れたい。触れてもいいか。いぬとねこの毛繕いが明確な欲を含んだ行為に変わるとき、始まりはいつもこうだ。戯れの延長で互いの核心に触れる。カゲは片方の掌で包む。一方で年下の恋人は、おもちゃに夢中な幼子の真剣さで、両の手のゆび先を軽やかに動かす。やがて昂りは満潮を迎え、凪のうちに乱れた呼吸を整える。きょうだって、そんなふうにおわるはずだった。
太一が高校を卒業するまでは、しない。それが約束だった。忘れているのではない。はっきりと記憶し、それでもなお太一はその先を望んでいるのだ。高校卒業までの月日を数えてみる。残り一年と六ヶ月。たいち。呼びかけた声に振り向くかおは、甘やかな期待を湛えている。
「カゲさんが上でいいっすから」
「そういう話じゃねーよ」
威勢よくいってんじゃねぇ。前髪の隙間から覗く太一のおでこを、指で軽く弾く。
「最初はキスまでの約束だったろ」
続くことばを待たずに、太一は肩を落とす。
「でも、」
今度は目を瞬かせる。傾く陽が下まつげの陰をつくっている。なんてわかりやすい奴なんだよ。おれは結局こいつに甘いのだ。何を言うかはもう決めていたのに、己の欲望を恋人の愛らしさのせいにする。
「でも、どうしてもシてぇなら、」
すでに再びゆるく勃ち上がっていた太一のそれに手を伸ばす。触れながら、自分もまた熱を帯びるのを感じる。上半身を壁に預けた年下の恋人の、広げた脚の間に座る。その脚に重ねるようにして自分の脚も開く。たったこれだけのことで、背中はじっとりと汗ばむ。下着の割れ目からそっと取り出した熱を、太一のそれに密着させる
「ここまでな」
見せた最大の譲歩に、恋人の瞳の中で星が弾けた。
愛はどこへ向かうのか。劣情に終わりはあるのか。受け止めきれない感情は全身に穴を空ける。ふたりを柔く握る太一の掌。その上に重ねた両の掌は、恋人よりまだ大きい
初出:2021/10/27(Twitterにて)