頬に触れる柔らかい感触に、ぼんやりと目を覚ます。カーテンの隙間から漏れる光が、こいびとの猫っ毛をきらきらと照らす。朝陽だ。ふたりそろって非番の休日がうれしい。カゲさん、カゲさん。胸の内で名前を呼びながら、彼のうなじを食む。
初めて知った。いつも首まで隠してるその素肌の白さと滑らかさ。できるだけやさしく、そっと触れる。自分の緊張が伝播するように、触れたところが熱くなる。つつ、と指が肌を伝うと年上のこいびとは甘く全身を震わせた。クソ生意気がよ。吐き捨てるような言葉とは裏腹に、口の端がにやりと笑う。くちびるの隙間からぎざぎざの歯が覗く。「太一のことになるとカゲはとんと可愛くなる」。付き合い始めてからボーダー内で何度も聞いた言葉を反芻する。けれども思う。ちっともわからない。カゲさんはかっこいい。怖い、と服を脱ぎたがらなかった年上のこいびとを前に、太一は幾度でも思う。カゲさんは、かっこいい。
「たいち、おい太一。」
うるせえよ、と首を竦める。腕のなかで背を向けるこいびとの、ぶっきらぼうな声が愛おしい。へへ、ごめんなさい。強すぎるきもちは彼を困らせる。けれども彼への感情をどうやったって止めることができない。ふたりの日曜日は、まだ始まったばかり。
初出:2021/10/25(Twitterにて)